「うわー・・・質問してたらもう22:30か・・・。」
私は高校3年生。つまりは受験生だ。センター入試まであと1ヶ月程・・・。苦手なところは少しでも潰しておきたいところ。ってことで、高1から通っている塾で先生にわからないところを質問していたのだ。
やっと理解できて、さあ帰ろう!と思ったらもう22:30だ。塾から家までは徒歩20分。私の両親は共働きで夜は遅くまで帰って来ない日もある。その日は塾まで迎えに来てもらうことはできず、今日は生憎その日だ。家で待っているのはすっかり冷めてしまった晩御飯だけだろう。(ごめんね、お母さん!)
「んー・・・。いつもは通らないけど、近道してこっかな。早く帰りたいしね。」
そう独り言を呟き、いつもとは違う道を歩いた。こっちの道を歩けば10分ちょっとで家に着く。途中にあるトンネルが私はなんとなーくだけど苦手だから、いつも少しだけ遠回りをして帰っているのだ。そのトンネルはそんなに長くはないし、電気もちゃんとついていて怖いものではないんだけど・・・。何故か私は苦手なのだ。それも、幼い頃から。
それでも、今日は何故かそのトンネルを通っても平気な気がした。多分、早く帰りたいからなんだろうけどね。
「そーだ、家帰ったらもう1回今日やったところ復習しなきゃ・・・!」
私って独り言多いなあ・・・。今日はいつもに増して多い気がする・・・。それはともかくとして、あのトンネルの前にやってきた。そのトンネルを一台車が通って行ったのをみて、少しだけ安堵する。やっぱり、無意識に緊張?してたんだなー・・・。
まあ、ここまで来たんだし、通らないわけにはいかない。そう思って私はトンネルを歩いていった。そして、トンネルを抜けてすぐに異変に気づいた。
「え・・・っと・・・?何処・・・?此処・・・。」
私の目の前に広がるのは草原、草原、草原・・・。果てしなく草原が広がっているだけ。後ろを振り向くもトンネルはない。その瞬間、私は説明のつかない不安と恐怖に襲われた。どこに来ちゃったの・・・!?何処なの・・・?此処は・・・。
自分に問うても答えが出るはずもなく・・・。怖くなった私はその場に座り込んでしまった。
「そ、そうだ・・・携帯・・・!!」
携帯で誰かに連絡しよう。そう思って鞄に手を突っ込もうとする。が、鞄がない。どこかに落としたのかと思って周りを見ても、やっぱり草原が広がるだけ。肩に掛けていた何の変哲もないスクールバックは何処かへ消えてしまった・・・!!
携帯もなければ、問題集や教科書、参考書もない。
「っ・・・んで、なんで・・・っ・・!?」
私は夢でも見ているの・・・?これが夢なら早く覚めて欲しい。でも、自分は歩いていた。歩きながら寝るのは流石に無理。それに、この風の吹いている感じや、鼻を掠める草の匂いはどう考えても現実のものとしか思えなかった。
辛うじて堪えていた涙も私の頬を伝って地面に落ちた。
その時、遠くから何かの音がした。それも、だんだんこっちに近づいてきている。怖い・・・。
「そこで何をしている!」
「えっ・・・?」
私に声を掛けたのは1人の青年だった。私よりも4,5歳程年上かな・・・?それにしても可笑しな格好をしている。鎧を着て馬に乗って。しかも、何よりも驚いたのは、私がその青年を知っていることだった。
「きょ・・・姜維・・・!?」
「・・・何故私の名を知っている?お前は何者だ?」
「え、あ・・・その、私はって言います・・・。」
嘘だ・・・信じられない・・・!!何で姜維がいるの・・・?コスプレなんかじゃない、本物の姜維が目の前にいる。びっくりしすぎて、もう涙は出てこない。何とか自分の名前を言ったものの、その後姜維の目を見ることができない。きっと私は怪しい目で見られている。
そう思っていたとき、軽やかな音がして、姜維が馬から降りたのだとわかった。
「随分奇妙な格好だな・・・。それに、名も奇妙だ。」
「あのっ・・・!!話だけでも聞いてもらえますか!?」
「え・・・あ、あぁ。」
「信じてもらえるかどうかわかりませんが、全部・・・事実なんです。」
そして私は姜維さん(さっきはつい呼び捨てにしてしまった・・・。)に私が1800年後の世界から来たこと。姜維さんたちが出ているゲームのこと。(この話は多分理解してもらえなかったと思う・・・。)
姜維さんは私のわかりにくそうな説明も最後まで真剣に聞いてくれた。その時、私は初めて姜維さんの目を見て話した。全てを話し終わったあと、姜維さんは、考えるような仕草をしかたと思ったらスッと立ち上がった。
「私には先ほどの話を全て理解するのは不可能でした・・・。」
「です、よね・・・。」
「しかし、貴女が困っているということはよく分かりました。先ほどは失礼な口をきいて申し訳ありません。」
「そんなっ・・・!!謝らないで下さい!!」
そして姜維さんは私を城まで連れて行くと言って、馬に乗せてもらった。何もなかった草原をどんどん走っていき、15分ほど走ると、城らしき建物が見えてきた。馬に乗っている間も姜維さんは私を気遣っていろいろな話題を出してくれた。ゲームで見るよりも優しい笑顔に、私は少なからずドキドキしていた。
「さあ、着きましたよ。殿は親切な方です。安心してください。」
「劉備さん、ですよね。」
「殿のことももご存知ですか。」
はい、と返事をすると、姜維さんは微笑んでご案内します、と言った。私は姜維さんの後ろをついて行く。その間の周りの視線は結構痛い。考えてみれば当然だろう。見たこともない服装をしているのだから。
それでも何も言われないのはきっと姜維さんといるからだろう。そんなことを考えているうちに私は大きな扉の前に立っていた。姜維さんが失礼します。と一言言い扉の中へと入って行く。私もその後をついて行くと、その中には見たことある顔ばかりだった。
劉備さんはもちろん、諸葛亮さん、趙雲さん、馬超さん、関羽さん、張飛さん、星彩さん、関平さん・・・。みんなゲームの中と一緒だった。その人たちの視線は全部私に集まっていて、私はかつて体験したことのない緊張感に包まれていた。
「お主が殿か?」
「は、はい。」
「そんなに緊張しなくても良い。身がもたんぞ。」
劉備さんはそう言って微笑んでくれた。その一言で私の緊張は嘘のようにほぐれていった。隣では姜維さんがそんな私を見てクスッと笑った。そのまま私は姜維さんにもした説明をそこにいる人たち全員に聞かせた。
反応は人それぞれだけど、私の服装等を見て、信じてくれた人もいるように感じた。
「よう、俺は馬超。字は猛起ってんだ。よろしくな。」
「あ、はい。よろしくお願いします・・・!」
早速話し掛けてきてくれたのは馬超さんだった。そして諸葛亮さん、趙雲さん・・・とみんな話し掛けてくれた。蜀軍の人たちはみんな良い人だな〜と一人で別の世界に飛んでいってた。(危ない、危ない・・・。)ボーッとしていると、再び劉備さんが口を開いた。その言葉は私にとってはとても嬉しいことだった。
「帰れないのならば、この城にいると良い。皆殿のことを気に入ったようだしな。」
「良いんですか!?どっから来たのかもわからないような私が・・・。」
「お主が嘘をついているようには私も思えん。」
「確かに、嘘はついてませんけど・・・。」
「それに、行くあてがなく困っているのであろう?帰る方法がわかるまでいると良い。」
「ありがとうございます!!!」
「そうなると部屋は・・・そういえば、姜維の隣の部屋が空いていたな?」
「はい、空いております。」
「うむ、そこで良いだろう。殿も最初に会った人物の近くが安心できるだろう。」
もう、泣いても良いですか!?劉備さんの心遣いが嬉しくて、私は感動していた。そして、姜維さんに案内されて部屋へ。私なんかにも女官をつけてくれるらしい。(すごい!)名前は鈴寧と書いて「りんねい」さんと読むらしい。私の身の回りの世話は鈴寧さんがしてくれるんだって。鈴寧さんは部屋の説明を一通りしてくれて、何がどこにあるかなどはだいたいわかった。
隣の部屋には姜維さんが。向かいの部屋には馬超さん。楽しくなりそうだなー。
「様、今日はもうお休みになられては如何ですか?お疲れでしょう。」
「あ、えっと・・・じゃあ、そうします。」
「かしこまりました。では、着替えはこちらにおいておきますね。」
「ありがとうございます!」
そして鈴寧さんはふわっと微笑むと部屋を出て行った。とっても笑顔がすてきな人だ。そして私は制服を脱いで着替えた。夜は蝋燭の灯りのみで暗く感じたけど、電気とかはないからまあ、当たり前といえば当たり前か・・・と納得した。そして、寝台に寝転がって寝ようかなーと思っていたとき、外で声がした。
「殿・・・姜維です。まだ起きておられますか?」
「あ、姜維さん!起きてますよ。」
扉を開けて姜維さんを部屋に通して、先ほど教えてもらったばかりのお茶を出して淹れた。どうやら緑茶のようなものらしい。姜維さんはお礼を言って湯のみを口に運ぶ。
「殿に一つお話があるのですが・・・。」
「何ですか?」
「実は、近々呉軍の方々と宴を開くことになっているんですが、殿にもそれに出席して欲しいと殿が。」
「私も、ですか?呉軍っていうと・・・孫権さんや陸遜さんや凌統さんがいるところですよね。」
「ええ。ご存知ですか。」
「はい。それで、宴のことなんですけど・・・私なんかで良ければ喜んで。」
「そうですか、良かった。では、殿にはそのように言っておきます。」
そして、姜維さんは自分の部屋に戻って、私はもう一回寝台に寝転がった。家のベッドとは違って少し堅いけど、そんなに気にするほどでもない。それに、今日は疲れてしまった・・・。もう寝て、また明日の朝いろいろ考えよう・・・。
そう考えているうちに私は眠りに落ちていった。
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はい、姜維連載第1話です!
今のところお2人に恋愛感情はありません。が、多分すぐにでてきます。
呉軍との宴は単に凌統、陸遜と喋らせたかっただけです。
何やらいろんな所が怪しいですが、何とか頑張っていきます!
2009/04/20 Ten