翌朝、目を覚ました私はやはり、これは現実であり夢ではないことを改めて実感した。でも、このままくよくよしてたって仕方がないんだし、こんな体験をしたのは恐らく私だけだろう。そう思えばこの現実も悪くない気がする。
それに、今日は呉の人達と宴だって!陸遜や凌統を見ることができるんだよね・・・?無双ファンなら誰もが喜ぶよ!




様、おはようございます。」


「あ、鈴寧さん!おはようございます。」


「昨夜は良く眠れましたか?」


「はい!」


「それはなによりです。あ、それと・・・今晩の宴で着る衣装を選んで頂きたいのですが・・・。」


「あ、さすがにあの服では出れませんもんね。」




そして、鈴寧さんに案内されて別の部屋に移動した。その部屋にはたくさんの衣装があった。しかも、どれもこれも装飾とかがすごく豪華で、一目見ただけでも高い、ってことがわかる。こんなにステキな衣装を私が着ちゃっても良いのかと思って鈴寧さんに聞くと、彼女は笑って貴女様は蜀の大切な客人なのですよ、と答えた。何となく恥ずかしかったけど、そういう風に思われているんだなーと思うと私の頬は自然に緩む。
そしてしばらくの間、鈴寧さんと衣装を選んだ。




「よし、これにします!」


「とてもお似合いですよ。髪型も少し変えましょう。」




そして鏡の前に座って、鈴寧さんに髪をアレンジしてもらった。腰くらいまであった髪の毛をまとめて、これまた豪華な髪飾りでとめた。衣装は全体的には蜀の色でもあるグリーンを基調としていて、少し肩が開いていて、スリットが入ったようなチャイナドレス?みたいな衣装。金の刺繍とかが入っていて、これも相当高いんだろうなーって。(さっきから値段の話ばっかりだ・・・。)




「姜維様に見せてきては如何ですか?とてもお綺麗ですよ。」


「姜維さんに・・・!?」


「ええ。きっと様があまりにも綺麗なので驚くのではないでしょうか。」


「えっと・・・み、見せてきます・・・!!」




せっかくなんだし、やっぱり姜維さんには見て欲しい。そう思って私は、自室の隣の姜維さんの部屋の扉をノックした。中からはすぐに返事が返ってきて、私は言われた通りに部屋の中へと入った。




「あ、殿・・・?」


「その・・・今晩の宴のために鈴寧さんと衣装を選んだんですけど・・・変じゃないですか・・・?」


「とても、お似合いです。」




お互い視線を合わせられずにいると、私の後ろから馬超さんが現れた。




「おぅ、。ずいぶんと化けたな!」


「化けたって・・・!確かにそうですけど・・・!!」


「馬超殿、それは殿に失礼です・・・!」


「っと、悪い悪い。でも、本当に雰囲気も変わったぜ、お前。」


「・・・そうですか?」




おぅ!と返事をして馬超さんはニッと笑った。そしてそのまま後から来た趙雲さんと鍛錬場へと向かって行った。また2人になった私達だったけど、鈴寧さんが宴の席でのことを教えてくれるということで、私は自室に戻ったのだった。
早く夜にならないかなー。今日のお昼はずっとそればっかりを考えていた。




殿、ちょうど良かった。貴女を探していたんです。」




呉の人達が蜀に着くまでもうちょっとかなーってときに、私は姜維さんに呼び止められた。何かと思って聞いてみると、それは私の来た国などについてだった。・・・確かに1800年後の世界から来ました!なんて言えないよね・・・。それに、私は三国がどうなるかなどを知っているんだから・・・。
まあ、暗い話は置いておいて。私が日本から来たーっていうのは話して、劉備さんと私のお父さん(仮)が仲が良くって、私は中国のことを勉強しに来ました、と。つまりは留学のようなもの。確かにこれなら怪しまれないよね。流石は諸葛亮さん!
一通り説明してもらって、それを頭に叩き込むと同時に孫呉の人達が到着したとの知らせがあった。




「さあ、今日は好きなだけ食べてくれ。」


「よっしゃー!おい、馬超、飲みまくるぜ!」


「承知!」




いきなりお酒を飲みだしたのは、張飛さんと馬超さん。そこに黄忠さん、孫策さん、甘寧さん、無理矢理連れてこられた呂蒙さんも加わって、とってもにぎやかだ。楽しそうで良いなーとか思いながら、私は目の前の料理を食べているだけだった。今は、姜維さんも趙雲さんも挨拶に行っていていない。




「あら、も一人?なら一緒に食べない?」


「星彩さん!一緒に食べましょう!」


「ありがと。」




そう言ってふわっと微笑んだ星彩さんは、女の私から見てもとってもほれぼれするような人だ。美人って羨ましい・・・!!
とにかく、2人で料理を食べながら喋っていると、さっきまで諸葛亮さんと喋っていた陸遜さんが私の傍に来ていた。その横を見れば凌統さんも。2人とも惚れ惚れするようなイケメンだ・・・!




「初めまして。私は陸遜。字は伯言と申します。」


「俺は凌統。字は公積ね。」


「あ、初めまして。です。」


「今、諸葛亮先生に貴女のことをお聞きしました。遠いところからいらっしゃったのですね。」


「ええ。それにしても、この国は素晴らしいところですね。今の私の国よりも良いところです。」


「この国の言葉も完璧だな。いつまでここに?」


「今のところ決まってませんけど、しばらくはこっちにいます。」




その後は星彩さんはお酒を飲みすぎた関平さんを見て来ると言って席をはずし、私はしばらく陸遜さん、凌統さんと喋っていた。凌統さんは冗談が好きで、それを真に受ける陸遜さんがとっても面白かった。
しかも、聞けば陸遜さんは私の1個下・・・つまり17歳だって話だ。17歳でこんなに落ち着いてるんだ・・・。んー・・・元の世界の男子では考え付かないなあ。




「私達の一部は少しの間ですが、蜀に滞在するので、時間が合えば一緒に出かけませんか?」


「わーお、軍師さん抜け駆け?俺も行きたいっつの。」


「え、えっと・・・私なんかで良いんですか・・・?星彩さんとか、月英さんの方がお綺麗だし・・・。」


殿も十分お綺麗ですよ。それに・・・正直なところ、星彩殿、月英殿とは敵同士・・・そう思うと、少し・・・。。」




そう言って陸遜さんは少し申し訳なさそうな顔をした。でも、確かにそうなんだよね・・・。ここに居る人達、今はとっても仲良くしているけど、実際には敵同士なんだよね・・・。そう思うと何だか寂しい気持ちがこみ上げてきた。でも、せっかくの宴でしんみりするのも嫌だから、今はそれを忘れてぱー!っといこう、そう私は決めて、また2人と他愛もない話をして宴を存分に楽しんだ。
そして、ようやく宴はお開きとなって、お酒に潰れた人達はそのまま宴を開いた部屋で寝てしまってる人もいた。ほとんどの人はそのまま客人用の部屋へと案内されて、体を休めに行った。私はというと、珍しくお化粧とかしてたから、それを落として、髪もおろし、服も着替えた。何だかだいぶ楽になった気がする。




「ふーっ・・・楽しかったなぁ・・・!」


「良かったですね、殿。」


「きょ、姜維さん・・・!?」


「驚かしてしまいましたか・・・?」


「ふふ、少しだけ。姜維さんはあまりお酒は飲まなかったみたいですね。」


「はい。私はあまり酒に強くないので。」




そのまま2人で廊下で立ち話をした。立ち話にしては長い時間だった。それに、今日は満月だったから、お互いの表情がはっきりとわかった。月明かりに照らされる姜維さんの顔立ちは、やっぱり綺麗なんだなーと、改めて思った。




「今日の殿は本当に美しかった・・・。」


「そう言ってもらえると嬉しいです!髪の毛とかあげたの久しぶりだったし、ああいう綺麗な服が着れて嬉しかったです!」


「それは良かったです。それにしても、殿の髪は、何と言うか・・・とてもさらさらとしていますね。」




そう言って、姜維さんが私の髪の毛に手を伸ばす。私の心臓はフル活動しだして、姜維さんにまで聞こえてるんじゃないかって思うくらいだ。そして、心臓とは逆に頭はまったく活動しなくなって、私は何て言えば良いのかわからなかった。
そして、頭を無理矢理働かせて、出した私の言葉はとてもありがちな言葉だった。




「姜維さんの髪の毛の方がサラサラですよ!」




そして、姜維さんの髪に触れようと、足を一歩前に出すと、まるでお決まりだというかのように、躓いた・・・。そして、私の体は姜維さん目掛けて倒れていく。それを姜維さんは受け止めてくれて、私はこけずにすんだ。寝巻き越しに伝わってくる体温が少し熱いのは、きっと気のせいじゃないと思う。そして、それにドキドキしすぎて、私の体温はそれ以上に上がっていったのだった。
それにしても・・・何だか、すごくベタだ。自分が少女マンガの主人公になった気分。元の世界にいた頃は、流石にそれはクサい!と思っていたけど、実際に体験すると、ものすごく・・・なんていうか、不思議な感覚になった。




殿、大丈夫ですか・・・?」


「は、はいっ!あの、すいません・・・。そそっかしくて・・・・っくしゅん。」


「だいぶ冷えてしまいましたね・・・。そろそろ寝ましょう。」


「あ、そうですね・・・。」


「では、殿、また明日。おやすみなさい。」


「おやすみなさい。」




ザアッ・・・と少しだけ強く吹いた風に身を縮めながら私は自室へと戻った。その風にガサッという物音が紛れていたことには気づかなかったけれど・・・。