あの陸遜の怪我から、2人の仲は結構良くなり、廊下などですれ違うと他愛もない話をしたり、陸遜がお茶や買い物に誘ったりすることが多くなった。もちろん、姜維はそんな2人を見てヤキモチを妬いているが、どうすることもできず、ただただ2人を見ていることしかできずにいた。
そんな姜維を見かねた馬超は、「お前も行動しなきゃ陸遜にをとられるぞ。」と助言をしたのだった。




、今大丈夫ですか?」


「今?うん大丈夫だよ。」


「良かった。2人で遠乗りでも行きませんか?」


「本当?でも、私馬乗れなくて・・・」


「私の馬に一緒に乗りましょう。1人くらい増えても平気です。」


「やったあ!じゃあすぐ準備してくるから厩舎で待っててくれる?」




陸遜はわかりました。と笑顔で返事をし、厩舎へ向かった。その現場を目撃した凌統は「頑張るねぇ・・・うちの軍師さんは。」と、少し呆れ気味に呟いた。そしてそれを見ていたのは凌統だけでなく、姜維もであった。姜維はグッと掌を握り、鍛錬場へと向かって行った。そして、少しでも気を紛らわそうと無心で槍を振るうのであった。




、落ちないように私に掴まっていてくださいね。」


「うん。」




そして2人がやって来たのは蜀の街が一望できる小高い丘だった。城からさほど遠くなく、陸遜はこの間散歩をしているときに見つけたんです、と言った。その風景にはただ、すごい・・・と呟く。街を行きかう人々は皆生き生きとしていた。




「劉備殿は素晴らしいお方ですね。」


「うん。街の人がみんな生き生きしてる。」


「私たち呉の国もすごいですよ。」


「いつか行ってみたいな!」


「そうですか。では、私が連れて行ってあげますよ。」




本当!?と目を輝かせるを見て、陸遜は今すぐ抱きしめたい衝動に駆られたが、そこは何とか抑えて再び蜀の街を見つめた。自分はやはりが好きなのだ、ということを確信して。
しばらく景色を堪能した2人は城へと戻り、は夕飯を作る手伝いをするから、と陸遜に別れを告げて厨房へと姿を消した。残された陸遜が夕飯まで何をしようかと考えていると、凌統が声をかける。




「ああ、軍師さん。遠乗りは楽しかったっすか?」


「ええ。とても。」


「えらく本気みたいに見えるけど?」


「・・・そう、ですね。私は本気でが好きです。」


「へぇ。ま、頑張って下さいよ。」









そして幾日か過ぎて、陸遜たちが呉に帰る3日前になった。今日もは女官の手伝いをしたり、鍛錬を見学したりして過ごしていた。そして夕飯を食べ終わったあと、は陸遜の部屋に呼ばれた。部屋へ行くと陸遜はお茶と茶菓子を出し、他愛もない話をしていた。そして、ふと沈黙が流れる。




「・・・。」


「ん?何?」


「今私が貴女に好きだと言えば・・・貴女はどうしますか?」


「え・・・?」


「好きです、・・・。貴女が、好きなんです。」




突然の告白に驚きを隠せない。だが、それはたまたま部屋の前を通りかかった姜維も同じだった。何も行動できない自分。そんな自分に比べて陸遜は遠乗りへ誘ったりと行動していた。でも今はそれよりもの答えが気になった。盗み聞きは良くないとわかっていても・・・足が動かなかった。




「・・・いきなり言われても・・・その、びっくりする、から。」


「そうですよね・・・。では、3日後・・・私達が呉へ帰る日に返事を下さい。」


「うん・・・わかった。」


そう言ってが席を立つと、後ろから陸遜がを抱きしめた。




「り、陸遜・・・」


「・・・すいません。でも、少しだけ・・・少しの間だけ、このままでいさせてください。」




そんな寂しそうな声をされてはも断れず、そっと自身の手を陸遜の腕に重ねた。姜維はその2人を見ることはできないが、会話の流れで何となくだがわかってしまう。一刻も早くこの場を離れたい。でも、足が動かない。頭が現実を受け入れることを拒んでいる。しばらくしてが陸遜の部屋から出てくると、姜維に気づくことなく自分の部屋へと走って行った。ふと見えたその顔は、暗闇でも見て取れるほど真っ赤で、姜維はそんなを見て、きっと2人は両想いなのだと思い込んだ。




「っ・・・どう、しよう・・・?」




自室に戻ったが呟く。陸遜のことは好きだ。だが、その好きは友人に向けられる好きであって陸遜が己に対して言っている好きではない。そして、自分が”好き”なのは・・・?と考えると、ふと姜維の顔が浮かんだ。




「わかんない・・・わかんないよぉ・・・!」




行き場のない想いが涙とともに流れ落ち、枕に染みを作った。