生まれ育った沖縄を離れて、もう5回目の夏を迎える。私は高校を卒業する前に東京の大学への入学が決まっていて、その大学も卒業した。大手といわれる会社に入社して、一年が経とうとしている。
仕事にも慣れて、言葉も完璧に標準語に慣れた頃だった。
私は今、23歳。中学、高校とテニス部のマネージャーをしていた。その時の仲間はみんな沖縄に残るか、本土の九州地方へ就職したと聞いた。
でも、それはあくまで一番頼りない凛の言葉であって、あんまり信用できない・・・。
「さん。ここの書類だけ、目通しといてくれる?」
「あ、はい。わかりました。」
「そうしたらお昼休みにしていいから。」
「はい。」
手渡された書類に目をやると、仕事かと思ったそれは会社の旅行の提案だった。行き先は・・・
「沖縄・・・。」
「。どうしたの?すごい驚いてるけど。」
「これ、もう見た?旅行のやつ。」
「あぁ、見た見た。沖縄っていいわよねー。」
「私、沖縄出身でさ。ちょっとびっくりしてんの。」
「え!?そうだったの?全然気づかなかった・・・。」
「で、運が良ければ友達に会えるかな、って。」
「んー・・・元彼とか?」
「そ、そんなんじゃないわよ!!」
何とか誤魔化したけど、実際はその理由もあったりする。もちろん、永四郎や、凛、裕次郎、不知火に新垣にも会いたい。だけど・・・
「・・・寛、逢いたいな・・・。」
高校の卒業式、私は彼に別れを告げた。理由は大学のこと。東京と沖縄じゃ遠すぎるから。・・・何よりも自信がなかった。
寛は最初は反対したけど、最後はそれが私の考えなら、って納得してくれた。大好きだった・・・否、大好きな彼。
5年経っても寛への思いは色褪せずに私の中にある。
「で、は参加するの?その旅行。」
「うん。するよ。」
「やっぱり?私もするよ。また一緒に買い物行こう。」
「うん。じゃあ、私お昼休みは行きたいとこあるから、またね。」
「了解。またね。」
行きたいところは本当はない。ただ、ブラブラしたかった。
私は会社からそんなに遠くないところを歩いてまわることにした。
「・・・にしても暑いなぁ・・・。」
アスファルトからの照り返しがきついなぁ、と思っていたら、人とぶつかってしまった。しかも、相手は書類を持っていたらしく散らかってしまった。
「すいません・・・!!」
「あ、気にしないで下さい。俺の前方不注意なんで・・・。」
何となくぎこちない標準語。この少し低めの声。
「寛・・・。」
「・・・!?」
「何で、東京に・・・?」
「・・・あとで話す。だから、今から時間良いか?」
「うん。大丈夫。」
適当に近くのカフェに入って、寛はアイスコーヒーを、私はアイスティーを頼んだ。
「それで、俺が東京にいるのは・・・その、に会いたくて・・・。」
「私、に?」
「高校のとき、の邪魔したらいけないんだ、って自分に言い聞かせて、と別れたけど・・・やっぱ、諦めきれなかった。」
「それで、東京まで来てくれたの・・・?」
寛はそれ以上何か言うのは恥ずかしいらしく、無言で頷いた。私は・・・未だに信じられなかった。
あのあと、連絡は一回もとっていなくて。それなのに・・・今、寛は目の前にいる。あの時とあんまり変わっていない姿で。変わったといえば、寛がぎこちないけど標準語を喋っていることと、スーツを着ていること。それ以外は変わってない。声も、体型も、特徴的な前髪も。全部、私が好きな寛だった。
「、泣いてんのか?」
「だって、寛がいるから・・・。ずっと逢いたかった・・・!!」
「・・・。しちゅんどー。」
「わんも寛がしちゅっさー。」
「ちょぎりーさー、離れねーらんでくれ。」
どんどん涙が溢れてきて、私は喋ることもできず、ずっと頷いていた。寛の一言一言が嬉しかった。
「凛にも感謝しなきゃ、な。」
「凛に?」
「俺に諦めきれねぇんだったら、のとこ行って話しつけて来い!!って言ってきたんだよ。」
「凛らしいね。他のみんなも元気?」
「凛と裕次郎は相変わらず。」
「永四郎は?」
「仕事も順調だって。みんな上手くやってる。」
「良かった。寛は?」
「俺は、この前東京に来たばっかりで、まだまだ慣れない。特に言葉が。」
「確かに、ちょっとぎこちないもんね。そのうち慣れるよ。」
それから、お互いの大学の話とかをして、楽しんだ。お昼休みがもっと長ければなぁ・・・。時間が止まれば良いって本気で思った。
でも、これからは寛にいつでも会えるんだ。そう思ったら自然と笑顔になれた。
もう時間で、私も寛も帰らなければいけない時間になった。
「、ちょっと。」
寛はメニューを立てて、私に手招きをした。そして、寛に近づくと・・・。
「久しぶりだな、キスするの。」
「うん。」
軽く、触れるだけのキス。それだけで、私の心は満たされていった。
「私の会社、旅行があって、その行き先が沖縄なんだよね。それで、寛に会おうと思ったけど、意味なくなっちゃった。」
「じゃあ、凛達に会ってやってくれ。アイツ等も心配してたから。」
「うん。・・・ねぇ、寛。」
「ん?」
「ありがとう。ここまで来てくれて。」
「・・・どういたしまして。」
少し名残惜しいけど、寛に別れを告げて会社へ戻る。
帰って来たら、すぐに同僚に何か良いことあったでしょ、って見抜かれた。だから、
「あったよ。すっごい良いこと。」
って答えておいた。
そう、再会