3年間。私は会ったことのない人に恋をしていた。友達に聞いてその人を知った。試合を観に行ってすごく惹かれた。それが恋だって気づくまで、たいして時間は掛からなかった。高校の入学式、その人と同じ学校だって知ってすっごく驚いた。でも、それ以上に嬉しかった。
「ごめん、!委員会あるから先に帰ってて!」
「うん、わかった。じゃあね。」
「マジでゴメン!また明日ね!」
さあ、困った。今、外は土砂降りの雨。朝は晴れていたのになー・・・。昼から雲行きが怪しくなってきて夕方にはこれだ。朝は急いでたから傘持ってくるの忘れたし。仕方が無い、走って帰ろう。なるべく屋根のあるところを通っていけば大丈夫だよね。
「あ、だ。」
「?南、誰?その人。」
「俺と同じクラスの奴だよ。そんなに目立つ存在じゃないけど、優しいし笑うとかわいいって結構人気だぜ?」
「へぇー・・・南はあんな感じの子がタイプなんだ・・・。へぇー・・・!うんうん、確かにかわいいね!」
「おい、千石・・・に手出すなよ・・・?」
さんか。確かに目立つ感じの子じゃないよね。どっちかというと大人しそうな感じの子。でも、パッと見た感じ、髪の毛はサラサラだし、目はパッチリしてるし全然かわいいじゃん!何か困ってる感じだけど・・・どうしたんだろう?
あっ。わかった。傘がないんだ。さっきから何回も空を見上げてるし。よーし!ちょっとポイント稼ぎしてこよーっと!どうせテニス部は今日、部活できないし!そう思って、俺は南に止められたけど無視してさんのところへ。
「どーしたの?傘、忘れたの?」
「え?あ、うん。」
「俺、もう1本傘持ってるから貸してあげるよ!」
「ありがとう・・・千石くん。」
「あれ?俺のこと知ってくれてるんだ!ラッキー!」
「うん。有名だよ、テニスすごく強いって。中学の頃から友達に聞いてたよ。」
びっくりした・・・!いきなり千石くんに話しかけられたから。声、上ずってないよね?緊張する・・・。初めてきちんと話すな・・・。3年間、見るだけだった千石くん。大好きな笑顔が目の前にあった。
「嬉しいなあ!そうだ、さんって下の名前何て言うの?」
「だよ。」
「へぇー!ちゃんか!かわいい名前だね。」
「千石くんってお世辞が上手だね。」
「お世辞じゃないって!」
あれー?何か今、自分が変だったぞ。確かに今、本気でお世辞じゃない!って言った。いつもなら軽い感じで言うのにな。ま、いっか。
「あ、傘ありがとう。また今度返しに行くね!」
「うん。いつでも良いよ。」
じゃあ、また今度ね。と言ってちゃんは傘を差して帰って行った。今日はたまたま折りたたみ傘がかばんに入っていたんだよね。それでちゃんと知り合えたんだ。ラッキーだなぁ!
「千石ー。お前、何かいつもと違ったな。」
「うわっ!南、いたの!?」
「お前なぁ・・・。で?どうなんだよ。」
「どうなんだよ、って・・・何が?」
「だから、いつもと何か違ったぞ。お前の態度が。に惹かれた?」
「んー・・・。どうだろうね。確かに自分でもいつもと違うなーって思ったよ。」
「・・・・・・ま、頑張れよ。」
南は何かを考えてたらしく間を置いてから俺に言葉をかけた。頑張れ、か。どうなんだろうなー・・・。ていうか俺、“本気の恋愛”なんてしたことないし。中学校のときとか女の子に声を掛けまくった。で、自分で言うのもアレだけど、俺ってカッコイイでしょ?だいたいはデートしてメアドとか交換してそれで終わり。向こうから連絡があるときとかはあるけど、正直もう誰だかわかんないんだよね・・・。それもあるから、たまに誰だかわからない子(いや、デートとかしたんだろうけどね?)から出会い頭に平手打ちをくらったこともある。それでも懲りずにまた声を掛けるんだ。多分、“運命の相手”っていうのかな?そういう人を探してたんだ。結局俺は“恋に恋をしていただけ”。
*
朝、いつも通りテレビの占いをチェックした。今日のラッキーカラーはこげ茶かー。恋愛運は好調、今日は全体的に良い感じらしい。ラッキー!でも、今日あたりがラッキーな日っていうのは決まってたんだよね。何でかっていうと、昨日ちゃんと知り合ったから。そうしたら、今日喋っても全然不自然じゃないでしょ?
「ちゃん、おはよう!」
「あ、千石くんおはよう!昨日は傘ありがとう。返すね。」
「どういたしまして!ところでさ、メアドとケー番教えてくれない?」
「良いけど・・・今日携帯忘れちゃったから、南くんに聞いておいてくれないかな・・・?」
「了解!それでさぁ・・・」
「清純!」
「ん?」
パーン!って。すごい音したなー・・・。名前呼ばれて振り向いたらコレだもん。今日1日顔真っ赤だな、これは。ていうか明日も赤いかもしれないな・・・。それよりも、ちゃんビックリしたよなー・・・。
自分の頬よりも、相手の女の子が言ってる言葉よりもちゃんが気になった。
「あんたなんか大っ嫌い!!」
「そっか、ごめんね。」
千石くんと喋っていると他校の子かな・・・?派手な雰囲気の子が来て、千石くんの頬に平手打ち。大丈夫かな・・?痛そうだけど・・・。でも、それよりも千石くんはいつもと違う雰囲気だった。何か迷っているような・・・そんな雰囲気。
でも、それはきっと私には関係のないことだから考えるのはやめておこう。それより、ハンカチでも濡らしてこよう。この近くに水道があるから。
「あれ、ちゃん?・・・わっ!?」
「あ、冷たかった・・・?ごめんね。」
打たれた頬に冷たい感触。何かと思ったらちゃんが自分のハンカチを濡らして俺の頬に当ててくれてた。本当に優しいんだなー。ビックリしただろうけど・・・。打たれて熱くなっていた頬は幾分かマシになってきた。
「ありがとう。ていうか・・・その、ごめんね?変なとこ見せて・・・。」
「ううん。私は平気。それよりも千石くんのが大丈夫じゃなさそうだよ。すごく痛そう・・・。」
「あははー・・・思いっきり打たれたからなー・・・。アンラッキー。」
「ふふ・・・千石くんって変わってないね。」
「へ?変わってないって・・・?」
「あ・・・。えっと、友達と・・・テニスの試合観に行ったこと、あるの・・・。」
「え!?そうなの!?」
顔を赤くしてうん、と頷くちゃん。それからテニスの試合でもよくラッキー!とかアンラッキー・・・とか言ってたよね。って話してくれた。試合かー・・・公式戦では桃城くんと神尾くんに負けちゃったんだよな。何か懐かしいや。その2試合もちゃんと友達は観に来ていたらしい。かっこ悪いとこ見られちゃったなーって言ったら、ちゃんはそんなことないよ、かっこよかった。って言ってくれた。カッコイイなんて言われ慣れた。だけど、何か知らないけど、すごく照れた。俺らしくないなー・・・。もうちょっとちゃんと話していたかったけど、もうじきチャイムが鳴るからここでお別れ。あのハンカチは今度は俺が返す。また喋れるんだ!ラッキー!
「みっなみー!!」
「・・・何だよ千石、気持ち悪いな・・・。」
部活に行くとき、語尾にハートでも付きそうな勢いで千石は俺を呼んだ。多分・・・というか絶対にのことだ。最近、千石はと仲良くしているところをよく見る。今日の昼休みにも俺にのケーバンとメアドを聞いてきた。更にこいつの頬が赤かったから、予想はついたけど一応どうしたんだって聞くと、案の定女子に平手打ち喰らったー。と能天気に話した。でも、今日はそれよりも嬉しそうだった。(なんていうか・・・気持ち悪い。)それについてもどうしたのかって聞くと、が自分のハンカチを濡らして冷やしてくれたんだって。こいつ・・・相当に惚れてんな。まぁ、俺としては千石の女遊びがなくなって良いと思うけど・・・。
「ひっどー!ていうかさ、聞いて聞いて!今週の占いによると俺とちゃんの相性バッチリなんだって!」
「へぇ〜・・・。(何て答えろと?)」
「・・・でさ、ここで南に相談デス。」
「何だよ・・?改まって。」
「中3のときにさー・・・俺、南に俺が何で女の子と付き合ったりするか話したよね。」
「あー・・・“運命の相手はいる!”って信じたいから。ってやつ?」
「そう、それ。」
「で?それがどうしたんだよ。」
「俺たくさんの子と付き合ったけどイマイチ迷うんだよね。誰がその相手なのかって。」
「・・・じゃないのか?」
「ちゃん?」
「あのな?千石と長い間一緒にいるとがお前にとって“特別”だっていうのはわかんだよ。」
うわ、南にしてはまともなこと言ったね。って言ったら南に真面目に聞けって怒られた。南、相当俺のこと心配してくれてたんだなー。(うん、ありがとう。)それで、真面目に南の話を聞くと、俺のちゃんと他の女の子に対する態度は違うらしい。多分、他の奴が見れば大して変わらないように見えてもわかる奴にはわかるって。
「・・・それにな?俺、に告ったんだよ。」
「・・・・・・。はぁ!?!?」
「う、うるさいな!で、その時の返事は3年間ずっと好きな人がいるから。ってフラれたんだよ!」
「好きな人、いるんだ。ちゃん。」
「その時、は俺に言ったんだよ。その人の良さ、南くんはもう知ってるよ。って。努力家だけど、それを褒められるのが苦手で、おちゃらけて見えるけど、実はいつでも真剣なんだって。私にはそう見えるし、南くんもそう思ってるはずだよ。って。」
・・・俺、自惚れちゃっても良いの?(ていうかヤバイ。泣きそう。)俺、そんなこと言われたことないよ?今、南が微笑んでる。それは期待しちゃって良いってこと?今まで俺に近寄ってくるのは俺の見た目だけが目的の子ばっかり。俺を近くに置いておけばカッコイイ彼氏がいる。って自慢になる。つまり、俺はただのマスコットって感じ。その割に俺が浮気とかするとすぐにキレて俺が振られてそれで終わり。俺の中身を見てくれる子なんていなかった。
「ねぇ、南ぃ〜・・!俺、今まで俺の性格まで見てくれる子いなかったんだよ・・・!」
「あー、わかった!お前の言いたいこと全部わかったから!!泣き止め!そんでのとこ行ってこい!教室にいるから!友達待ってる。」
「っ・・・!南、俺南が友達でよかった!ありがとう!行ってきます!」
走りながら部活で汗を拭くために使うはずだったタオルで、涙でぐしゃぐしゃの自分の顔を拭いた。(ちょっと痛かったけど。)階段を駆け上って、廊下を走って、ドアを開ける。
「千石くん・・・!?」
俺はちゃんを抱きしてめて、自分が思ってたことを言った。やっぱりすごい恥ずかしかったけど、ちゃんは相槌を打ちながらずっと聞いていてくれた。
「ちゃんはスゴイね。突然現れて突然俺を惚れさせるんだもん。」
「あのね、それは千石くんもだよ。私、テニスって興味なかったけど、中1のとき、友達が南くんを見たい!って言ったから一緒にいったの。そこで私は千石くんの試合を見たの。その試合後に勝った千石くんはおちゃらけてたけど、水飲んでくるって言って水道に行ったときに、私ついていったんだ。」
あぁ、覚えてる。公式戦初めて試合に出させてもらったんだ。南・東方と俺が。その時に俺は試合に勝ったけど、何かが違う気がしてた。そして水道の方に行って走りこみと素振りをしてたんだ。もっと練習しなきゃって。もっと強くならなきゃって。あれ、ちゃん見てたんだ・・・。努力してるとこ見られるのは好きじゃないんだけどな。
「その時の千石くんを見て、私は千石くんのことが好きになったの。友達とじゃなくて、1人でも試合を見に行ったりした。」
「南に告られたときに言った、3年間ずっと好きな人って・・・本当に俺?」
「うん・・・!」
「ちゃん、好き。大好き・・・!俺と付き合って!」
「うん!」
千石くんは何回も好きだって言ってくれた。ここに来る前に泣いてたみたいだけど、また泣いてた。私ももらい泣きしちゃって、2人で笑いながら泣いてた。その場面を友達に見られて笑われたけど、おめでとうって言ってもらった。(千石くんは浮気しちゃだめだって怒られてたけど・・・。)次の日、南くんに会った。ちょっと気まずかったけど、南くんらしい優しい笑顔でおめでとう。って言ってもらえて、また泣きそうだった。
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