感情なんて面倒くさいもの、とうの昔に捨てた。
今の私はまるで操り人形だ。
奴の、操り人形。




はどこだ。」

「・・・はここにおります。」

「そこにいたのか・・・さあ、早く。」

「・・・はい。」




私がいれば、毎晩のように抱かれる。あいつの好きなように。私の意志なんて微塵もない。思いやりだって微塵もない。そのくせ私が感じていないと容赦なく殴りつける。普段の仕事柄、痛みには慣れているのだけど・・・。あいつが勝手に快楽に溺れているだけ。私は感じているように演技をしていれば良い。


朝から昼は、主の護衛から、偵察、暗殺、埋伏まで・・・主に危険な仕事を行う。主が命令さえすれば、それがの仕事になる。もし、主が彼女に死ねといえば、はあいつの目の前で迷わず自身の喉元を刀で突き刺すだろう。
・・・そんな生活をして、もう何年になるだろう。
最初は嫌がっていた。でも、三月もすればそれは無駄な抵抗にすぎないことを悟る。そこから彼女は人形に成り下がったのだろう。




「あぁ・・・!・・・!」


(嗚呼、気持ち悪い。吐き気がする。)


・・・いくぞ・・・!」









「私の・・・どこにも行くでないぞ。」

「・・・はい」

「お前は私のものだ。心も体も、すべて。」

「わかっています。」




その晩、の部屋に妙な人間・・・否、仙人が入り込んだ。名は太公望といった。何故ここへ来たかと問うと、太公望は一言「興味深いものがあった」とだけ答えた。それからは仙界の話をに聞かせた。そして、その日から太公望は毎晩のように部屋へ来るようになった。
掴めない性格だが、一定の距離を保って深くは入ってこない。その距離が丁度良く、が太公望を拒むことはなかった。毎晩来て、特にすることはなく、話をしたり、月を見たりするだけだった。


いつも、太公望が来る直前まで、私はあいつの欲望をぶつけられていて、たまに傷を作っているときもあった。今日も3回ほど殴られ、口の中が切れて口内には鉄の味が広がっていた。部屋に戻ってしばらくすると、今日も太公望はやってきた。




「今日も来たのか。」

「することがないからな。、お前も同じだろう?」

「ああ・・・。」

「今宵は月が美しい。」

「そうだな。」




城内のほかの者は、皆寝静まり、辺りには心地よい風が吹いていた。その風に乗るように太公望の顔がに近づき、そのまま唇が重なった。一瞬、びくっと強張ったの反応を楽しむように、太公望は何度も口付ける。も抵抗はするものの、その抵抗は太公望を拒むものではなく、流れ的に、と言った方が良さそうだ。
何度目か分からない口付けをした後、太公望は舌での口をこじ開け、傷ついた口内を自身の唾液で満たしていった。口端からは入りきらなかった唾液が溢れ、の頬を、首筋を濡らしていった。




「痛っ・・、太公望・・・!」

「・・・何故、は奴の言いなりになるのだ?」

「何をしたって無駄な足掻きにしかならない。」

「何もしていないのに、無駄だと何故決め付ける?」




返事を待たずに、太公望はを組み敷くと、器用に帯紐を解いた。先ほどまでの行為を象徴するかのような紅い華が月明かりに浮かんだ。が「見るな」と言うも、両手は太公望に押さえられていて、抵抗も何もできない。太公望は微笑を浮かべると、もう一度に口付けた。




、教えてやろう。無駄な足掻きとは何か。」

「何をっ・・・あっ・・・」




私は、太公望と距離をとってきたつもりだった。しかしそれは私の勘違いだった。奴はこんなにも深く私の中に入り込んでいた。あいつにされることと同じなのに、太公望にされると演技なんてできない。私自身が太公望を求めている、そんな表現が正しいといえるようだった。
あいつのつけた痕の上から太公望が痕をつけていく。それだけのことで反応する自身の体を恨めしく思いながらも、その快楽に抵抗することに必死になっていた。




「あまり声を出すと、城の者が起きてくるぞ。」

「つぅ・・・っ・・・!」

、私は仙人だ。いつもお前が犯されているところも見ていた。お前はこんなに感じやすかったか?」




喉の奥でクツクツと笑う太公望を睨むも、どうすることもできずにいた。そしては、先ほど太公望が言った”無駄な足掻きとは何か”を徐々に理解し始めるのだった。
それから時間が経ち、太公望がの寝巻きを直してやると、が目を覚ました。




「私が言ったことは理解してもらえたかな?」

「・・・ああ。」

「何を拗ねている?淫らでいやらしかったぞ。」

「なっ・・・!」




はそのとき、自分には感情は残っていたのだ、と。自分は人形なんかではない、と思った。そして決意を固めた。




・・・私が今言いたいことが理解できるなら、明日のこの時間に私を呼ぶといい。」

「・・・わかった。」

が呼んだらどこにでも行ってやろう。」




そう言うと太公望は最後に深く口付け、の部屋を後にした。は太公望の気配が消えたのを確認すると、”感謝する”と一言呟いた。そして自分の愛刀や、普段着ている服を用意してから眠りについた。
そして翌日の晩、いつものように行為を求める主に一言言った。




「私はお前のものではない。」




呆気にとられている主を放っておき、月に向かって名を呼んだ。




「・・・太公望!」

「決心はついたようだな。」

「ああ。」

、共に来い。」




は無言で、しかし力強く頷くと太公望は満足げな笑みを浮かべ、どこからか馬を出してきて、それにを乗せると自分も馬に跨りそのまま城を飛び出した。主が時漸く我に返ったときには、既に2人の姿はなく、それから主がを見ることはなかった。




・・・愛している。」

「・・・私もだ。」









unquestioning



obedience



絶対服従









あとがき

裏にしようか迷いました。
まあ、何とか思いとどまって微裏程度に・・・。
太公望の口調がイマイチわかりません(・ω・`)
とりあえず、太公望はテクニシャンだと思ってます。・・・彼いくつなんだろう・・・?

ちなみにタイトルは日本語で絶対服従です。線が引いてあるのは断ち切ったことをあらわしています。